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第33号 三谷文庫 創設記念授業(後編)

前回に引き続き、6月におこなった吉野小学校での4.5年生向け授業「本の不思議」をベースに書いていこう。

前編では、漢字の歴史、書体の不思議、そして、グーテンベルグによる印刷革命について述べた。後編では、アマゾンによる流通革命、グーグルによるデジタル革命の話へと進んでいく。

でも、子どもたちに大切なのは・・・・

校庭三面分の本

2007年時点で日本最大の書店(店舗規模)は、八重洲ブックセンター※1。東京駅前 8階建てビルの延べ1800坪に、150万冊の書籍が列べられている。

1800坪は大体100m×60m。やや大きめの小学校の校庭くらいだろうか。そこにぎっしり書棚が列んでいる光景を思い浮かべてみよう。

毎年出版される7.6万タイトルの書籍と3000種の雑誌は、こういった場所を通って流れているわけだ。

新刊の9割以上は1ヶ月を経ずして姿を消し、1割のみがしばしの滞留を許される。しかし安寧(あんねい)は許されず、長く売れ残れば結局は出版社へと戻され、裁断機のお世話になることになる。

駅前などの最高の立地を活かしたとしても、リアルな本屋さんではこれがおそらく限界点だ。


ではバーチャルではどうか。

アマゾンの日本向けサイトamazon.co.jpでは、現在、新刊・古本取り混ぜて、470万タイトルの本を取り扱っている。

八重洲ブックセンターのざっと3倍、校庭3つ分の本屋さんだ。書籍での売上高(日本)は年間およそ1000億円。八重洲ブックセンターの5倍、全国に60店舗を展開する紀伊國屋と同程度の売上を、たった1店舗で上げている。

それが歩いてゼロ分、各家庭の机の上にある訳だ。


それを可能にしたのがインターネットであり、アマゾンという企業なのだ。

グーグルの野望

グーグルはそれを更に推し進めようとしている。

インターネット上にあるホームページの情報量※2は2005年時点で約135億ページ分、5000万冊分に達する。

これを検索可能にするだけでなく、「デジタル図書館プロジェクト(Google Print Library Project)」では、全世界の主要な図書館と提携し、その蔵書をスキャンしまくっている。

対象はハーバード、スタンフォード、ミシガン、オックスフォードの各大学図書館やニューヨーク公立図書館等。スキャンするのはその第一陣分だけで1500万冊。その後の提携図書館の分を含めれば、おそらく2500万冊近くが、グーグルの検索対象としてカバーされるようになる。

まさに「人類の知の一元化」と言えよう。誰でもが、いつでもどこからでも、過去の人類の叡智の結晶を、検察・閲覧できるようになる。そういった究極の世界まで、もうあと一歩のところまで来ている。


でも・・・それが何だというのだろう。

子どもたちにとって、そのデジタル化された数千万冊分の叡智は、何の意味があるのだろうか。

知識の海に溺れぬように

一人の人間が一生の間に吸収しうる意味ある情報は、精々9GBと言われている(毎秒10~50bit X 70年分)。つまり本にして約7万冊分「足らず」だ。

1日2.7冊と考えると頭が痛いが、テレビもお喋りも全て含めてだから、大したことはない。


それよりは、世の中にある数千万冊分の知識からどう意味のあるものを選ぶのかの選択スキルの方が問題だ。

いや、さらにそれ以前に、文字や画像といったデータから知識を読み取り、吸収する意欲と力(読解力)がなくては話にならない。

それは本で言えば、「本が好き」で「内容を読み取る力がある」ということだ。

子どもたちが付けるべき姿勢と力は、まずこれらが最優先。そうでなければ情報の海を喜々として泳げない。


ではどうやったら子どもは「本」が好きになるのか。絵本でもマンガでもゲームでもなく。

ここでは、「本を好きにならせる」ではなくて「好きな本を見つける」そして「そこから芋づる方式で展開する」方法をオススメしたい。そしてその鍵は「図書館」と「アマゾン」だ。

※1 店舗面積ではジュンク堂書店池袋本店が、2001坪(150万冊)で最大

※2 2009年中頃には281京バイトに達したと見られる(Google推定)

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