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第35号 諸先輩の金言集(前編)

どうしてもダメなら一段上がって大局的に正しいことを言え

学卒コンサルタントの大先輩でもあるNさんからの指導、はもう少しだけ具体的だ。

但し、極めてコンセプチュアルであり高度であり、実行難易度はかなり高かった。彼は斯界における一種の天才であったと思う。

ほんとうに色々なことを教えていただいたが、その中でも「一段上がる」は秀逸だ。


プロジェクトには必ず中核となるテーマがあり、それに対しての答えがある。そのテーマは更に細分化・具体化されていくかもしれない。そしてコンサルタントは必死にその答えを探し求める。

でもダメなときもある。そんなときどうするか。

もちろん、もっと頑張る、も答えのひとつであり得る。実際、20件、電話インタビューで断られ続けても、21件目からうまく行き始めて、それ以降はバンバン成功した、なんてことはよくある。

それでもダメならどうするか。

その時は、視点を上げることだ。細かく見れば見るほど、具体的にはなるが、戦局全体を見失う。本来、何を目的としていたか忘れる。何より、大きな打ち手を考えられなくなる。

積み上げ的分析やロジックで大きな答えが出ないなら仕方ない。一段上がって、大局的に正しいことを答えとしよう。そしてそれを実現するための方策を色々考えていこう。


これはある意味で、「逃げ」でもある。しかし、そういった局面は必ずある。厳密にはどうしても先がちゃんと読めない「混沌」。

そこでどう戦うか、そのための智慧のひとつでもある。

興味ある方は、私の尊敬するもう一人の天才、羽生善治さんの『決断力』(角川ONEテーマ21)も参照いただきたい。

将棋のプロ達の究極の世界がそこにある。


学卒コンサルタント(社会人経験無く、直接コンサルタントになったヒトの総称)の草分けでもあったNさん(因みに彼は院卒)は、様々な金言を後輩学卒コンサルタントに残した。

「弱点だと言われることをひとつひとつ克服していったら、つまらないおじさんが出来るだけ」

「得意なことをどんどん伸ばせばいい、心配ないよ」

ま、天才に心配ないよと言われても、それを疑うほどには智慧がついていた我々ではあった。

なんでもいいから面白いネタ持ってきてくれよ

現ドリームインキュベータ代表取締役のIさんからも色々な指導を頂いた。昼に夜に。

あるプロジェクトの始まりの頃、彼は言った。

「仮説とか何とか、まあいいから、兎に角面白いネタ見つけてきてくれよ」

「ネタが強ければそこから何とでもなるから」。


ひとつのネタが、プロジェクト全体を方向付けるだけでなく、それを支える、というのはまた凄い話だが、実際そうかもしれない。

結局の所、コンサルティングとは変革することが仕事であり、その為の最高のツールは華麗なプレゼンテーションでも、トップとの人間関係でもない。Fact(事実)だ。

強固な事実には何ものも抗し得ない。その為にプロジェクトチームは結成されると言っても過言ではない。

ただ頭を使うだけだったらシニアな人間が何人かいればよい。なぜ経験浅い若手もいれたチームで仕事をしているのか、それはFact収集のためだ。但し、「面白い」Fact、だ。これがなかなかに難しい。

本当に価値ある事実とは何か、それをどう得るのか、どう捻り出すのか。それは現場の人が言った、たった一言のコメントにあるのかもしれないのだ。


ある航空会社のプロジェクト終盤、金曜の夜、彼は鞄をパンパンにさせていた。全役員含め100人以上に行った初期インタビューメモ数百ページを自宅に持って帰ったからだ。

「週末、もう一回全部読んでみるよ」


きっとそこに答えは埋もれている。

本当に彼が全部読んだかどうかは別にして(いやきっと読んだと思うが)、彼は週明けには、見つけ出した素晴らしい言葉たちで、絶妙なる作品を紡いでいた。

Factに拘る姿勢とその価値、森と木を両方見つめるバランスを、私は学んだのだと思う。

「放置」の恩

さて、私が学卒ペーペーからコンサルタントに昇格したとき、これら諸先輩から言われたことがある。贈られた言葉なんていう格好いいものじゃない。

お礼に行ったとき、上記の諸先輩のうち2名が異口同音、同じことを言ったのだ。

「礼を言われて当たり前だ」

「あれだけ放って置いてやったんだから」。


確かに放っておかれたという認識はあった。ただそれを彼らが凄く意識してやっているという認識はあまりなかった。

でも確かにそのお陰で私は、自ら考え動く姿勢とスキルを得、放任故の強い責任感と自由さ、モチベーション(やる気)を維持することが出来た。これらは私の社会人としての根幹と言うべきものである。

そう。私が諸先輩に最大感謝すべきはこれである。

皆さんの「放置の恩」、決して忘れません。但し、恩返しはPay It Forward、我々の後輩たちにしていきますので、何卒ご容赦のほど。

初出:CAREERINQ. 2007/12/17

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