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第42号 渋滞百態

日本の社会的渋滞

日本の道路の渋滞は、国民に年間14兆円の経済損失をもたらしているという。しかし、日本の社会全体を見れば、それどころじゃない渋滞がある。それが「人事」の渋滞だ。

政治家で見ても、大国米国のオバマ氏は大統領になれば47歳で、ロシアのプーチン氏は48歳で大統領になり、今55歳で後任を42歳のメドヴェージェフ氏に託した。

現在、ヨーロッパの主要国の首相はほぼ例外なく50代だ。60代は、いない。スウェーデンのラインフェルト首相はなんと41歳と2ヶ月でその任についた。


欧米アジアの企業エグゼクティブでも、同様だ。

国の治め方、企業の治め方の難しさに、日本と外国でそんなに差があるわけがない。あるとすれば、それこそ心理的なもの。年功序列意識、年長者尊重意識によるものだろう。

世界で戦う企業にとって、そんな心理的壁に囚われている余裕はもう無い。多くの先進的大企業が、トップの若返りを進めて、50代(もしくは40代)にその舵取りを任せつつある。(H.I.S.の新社長平林朗氏は40歳)


しかし、問題はミドルだ。ここ10数年、団塊の世代をなんとか乗り切るために、日本企業は大幅な人事渋滞を引き起こしてきた。

ちょっと先輩を飛び越すと「抜擢人事」なんて呼ばれるほどに、若手の昇進は押さえられてきた。


それでも団塊の前の世代くらいは全員部長にはしてやろう、でもっとヒドいことになった。まともにやっちゃ時間が掛かりすぎる、で、部長ポストが2年交替で持ち回りになったり、「副」部長とか「副」本部長とかが大量に出現したり・・・

ではどうすればよかったのか?

渋滞の本質と解決方法

渋滞回避のために「渋滞学」をひもとくのも良いだろう。

パイプの中に水や油や粉を通す(流体学や粉体学)のとはちょっと違う難しさがそこにはある。パイプを通るのは、一個一個が動力やブレーキ、意思を持った自律的粒子、その意思はそれほど複雑ではない。

近づきすぎるとブレーキを掛け、空いていればアクセルを踏む。ただ、アクセルを活発に踏む者(上昇志向)もいれば、ゆっくりの者(マイペース)もいるだろう。

パイプの容量があって、そこを動く粒子達がいる。でもそれが詰まり気味だったらどうしよう?


根本的にパイプを太くする(道なら拡幅、線路なら複々線化)にはお金が掛かりすぎる。

バイパスを造ったり、パーキングエリアを充実させたりするのもいいだろう。出口専用インターチェンジを増やしたり、流入制限をしたり。車線を分けてスピードを変える、ファストパスを発行して優先度を変える。いろいろな工夫がある。

それよりもっと凄いのは、ディスニーランドの心理戦か。建物の中を複雑に迂回させて渋滞感をなくす、渋滞箇所にミッキーを派遣して渋滞の苦しさを楽しさに変える。

いや、そんなごまかしだけに逃げちゃいけない。若く優秀なエグゼクティブを育て、かつ、ミドルのやる気を維持するにはどうすればいいのだろう。


答えの一つは、組織の分散化、パイプの分化だ。それは子会社や関連会社にヒトを掃き出していくことではない。組織そのもの、本社そのものを分散化させることだ。

分社化にひた走る、JTBの試みが興味深い。


さて、他によい答えはないか? 日本企業独自のものを、知恵を絞って作り上げよう。

初出:CAREERINQ. 2008/07/15

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