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第51号 理系 対 文系

物理とはモノ(物)のコトワリ(理)

論理力自体は、国語という科目の中でも常に問われるものであり、理系科目でないと育たないわけではないと思う(拙著『正しく決める力』第1章 賢者アーファンティの項、参照)

ただ、理系科目でこそ強く培われ鍛えられるのが、科学する心と力、探究心と分析力だ。


例えば物理学はその名の通り、モノのコトワリをとことん突き詰めるのがテーマだ。

物質の究極は? 宇宙の果ては? 時間の始まりは? 重力って何だ?

そういう問いを発し、そして、それに答えようとしている学問が物理学なのだ。そこには無限の好奇心と、無限を相手に戦う力が要求される。


なぜ質量(重さ)というものがこの世に存在するのかという問いを発し、それに答えたのは南部陽一郎博士だ。

「自発的対称性の破れ」。それがこの問いに対して彼が自ら出した答えであった。

「宇宙は本当は、対称性以外が好きなんだよ」


対称性こそが宇宙の力の源泉であり、モノは常に対称を好み対称状態へ向かう、と信じていた世の物理学者たちにとって、これは革命的なアイデアだった。

あまりの独創性ゆえに、専門家たちが理解するまでに10年かかり、ノーベル財団に至ってはその理解に50年を要したが。

根源を問い詰め、本質を追い求める探究心と分析力を、理系科目で培おう。

先生ガンバレ! 敵は、受験!?

鈴木光司さんの、最後の指摘ポイントは、まさにその通りだ。理系担当教師は、理科の面白さを生徒たちに伝えられていない。

国立教育政策研究所は09年1月、高校教員2400人のアンケート調査を行ない3月に結果を公表した。


高校で理系科目を担当する教員は、

・「最新科学技術も話題に取り入れる」にYesが6~9割(小学校では3~6割、中学校では7割)

・「科学と日常の関わりを解説」にYesが9割前後

・「学んだことが日常に応用できることを教えている」にYesが8割前後

・「実験からの推論をさせている」にYesが6割前後(小中学校は8割前後)


教員たちの「ちゃんとやっているぞ」の声が聞こえてくる。しかし同時に、

・「生徒による実験回数が週に1~2回以上」にYesは1割以下(小学校は6~8割、中学校は6割)

・「生徒に発表機会を与えている」にYesは3~4割(小学校は7~8割、中学校は6割)

に過ぎず、日本の高校における、生徒主体の活動の少なさが目立つ。


そして「担当授業が好きな生徒が全体の60%はいる」にYesは、なんと2割前後(1~4割)に過ぎない(小学校は6~8割、中学校は4割)。これは普通科のみならず、理数科やSSH(Super Science High School)でも同様である。

教員自身も認識しているのだ。自分は理科の楽しさを伝え切れていない、と。


教員たちが挙げる、阻害要因の第一番目は「授業時間不足」であり、特に2年生以上を担当する教員だと「入試指導に時間を取られる」との認識が過半を占める。

これに直接対応するのは至難の業だ。しかし、手はないわけではない。それが一般社会人の力をもっと使うことだ。一般企業に勤める個人の力を借りる、企業自身の力を借りる。

最初は教員・学校側も手間が掛かるだろうが、回っていけばきっと楽になり、かつ、多くの面白い授業をやってもらえるはずだ。

社会を、企業を味方に付けて、高校のみならず学校にはもっともっと理系科目の充実を図ってもらいたい。

そのとき、最大の敵はおそらく、お上や上司であり、かつ親たち自身なのだ。

その壁を是非打ち破って欲しい。


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是非、お訪ね下さい。NHK「ソクラテスの人事」(木曜2200~2245)も始まりました。最後の一瞬、登場しています。

参考

初出:CAREERINQ. 2009/04/15

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