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第6号 マスター・オブ・ライフへの道(中編) 

6段階目の欲求「士は己を知る者のために死す」

富永は言う。

「人ってホラ ただ 生きているだけじゃ ツライだろ」「意味と ゆーか・・ そーゆうの」

「それぞれ 求めるモノ あるだろ 人って」

「で オレは 何かなって 考えたとき―――」

「わかって ほしいって コトかな・・と」

「チューニングという 行為を介して」「オレという人間を わかってほしい――――――と」

「それも」「ただ 誰でもって ワケじゃない」

「誰に わかって ほしいのか」「それが 大事だと この年でやっと 気づいたんだ」


商売上手な外車修理工場社長として久しく現場から離れていた高木が、10年ぶりのZ(事故でボロボロ)のボディーワークを命ぜられる。

北見は「330km/hに耐えるボディにしろ」と高木に言い放つ。Zを目の前にし、高木は心の中でアキオに問いかける。

「・・アキオ」「・・選ばれし者よ」

「与えてくれ」

「オレに 勇気を」

「オレは 今でも やれる ・・と」「勇気を 与えてくれ」


1ヶ月、不眠不休のボディーワーク仕事をやり遂げ、過労で入院した高木をアキオがZで見舞う。そのとき、高木は叫ぶ。

「アキオ・・」「オレは よくやったか?」

「オレの 作った ボディは」「お前が 命をのせて 走れるか?」

「アキオッ オレは オレは」「本当によくやったか!」


マズローの欲求5段階説的に言えばこれらは4段階目である「尊敬欲求(esteem needs:他人からの尊敬や責任ある地位を希求したり、自律的な思考や行動の機会を希求したりする)」と言えるだろうか。

いや、少し違う。富永の望みは決して第5段階目の「自己実現欲求(self-actualization needs)」の手前のものではない。その先にあるものだ。


チューナーにとって自己実現、つまり「自己独自の能力の利用および自己の潜在能力の実現を希求」することは当然の行為である。しかし、これは独善でもある。一方、尊敬欲求には主体性が弱い。

「士は己を知る者のために死す」は春秋時代の末期、予譲という人物が言った言葉とされる。

彼は晋の重臣の知伯に仕えて重用され、それを滅ぼした政敵の趙襄子への復讐を誓う。

刺客・予譲は最後に捉えられ「なぜ(予譲は)他の主君にも仕えたのに、知伯のためにだけ仇を討とうとするのか」と問われて曰く

「知伯のみが自分を国士として遇した。故に自分も国士として報いるのだ」


これは富永や高木の言葉に極めて近い。

自らの認める(超一流の)乗り手に、自らも超一流と認められてこその、自分。それが、全て。

人生の価値観を決めるような一言であると思う。


一期一会「いつかまた、は無い」

北見達は古い知り合いであるシゲを訪ねて大阪まで行く。(ブラックバードを呼び出して「西へ走ってくれ」で、大阪まで・・・)そこで出会ったランエボ(三菱ランサー エボリューション)を駆る大阪の走り屋 神谷との別れ。

「こっちからも いつか いくし ―――」(神谷)

「ムリだな おそらく・・」

「シゲの時でも 10年以上会わなかった」

「あいつが東京から 大阪に帰る時 またいつか会おう そう言ったのにナ」

「いつかは」「あんがいと こないん だよナ」

「東京-大阪 距離にして500km トバせば4時間」「だが距離や時間じゃないんだよナ」


そう、距離でも時間でもない。気持ちの問題だ。そして行動の問題なのだ。

本当にまた会いたいと思っているなら、その場で動こう。次に会う時間を場所を決めよう。自分から、一歩動くことが「いつか」の再会を現実のものとし、人と人とをつなぎ合わせる。


神谷は若い義母(実父の再婚相手、父は更に離婚し会社と借金を残したまま家を出る・・・)に言う。3ヶ月だけ自分なしで会社を回してくれと。

「ずっと東京行きたかったわ 行って勝負したかったんや」「・・でも行けんかった」

「なんやかんや言(ゆ)ーても こっちが 居心地ようて・・・」「行かんかったんや 結局」

「今さらプロの車屋に なろうとは 思うてへん」「ゆーなら ダメをもらう気持ちや」

「お前は ダメやと」「はっきり もらって くるわ」

「東京で―――」
神谷は、動いた。


最後に三度(みたび)、レイナに対しての北見の言葉だ。彼の父は61才で亡くなっている。

「オレの人生も61までだと思っている」

「あと21年・・ 19のお前が オレの歳に なるまでだ」

「オレが初めて あのZに会ったのも 19の時だった」「もう一度 あの時まで 折り返せば それで終わりだ」

「21年・・」

「長くて そして短い 迷っている 時間はない」


そう、時間は、ない。

41才の私には、かなり直撃系の言葉である。


マンガの回は更に続きます。次回は「無駄って素晴らしい」。癒し系マンガの回です。お楽しみに。

マンガリスト

  • MASTERキートン、勝鹿北星・浦沢直樹、小学館
  • PLUTO、浦沢直樹・手塚真、小学館(原作 手塚治虫「鉄腕アトム 地上最大のロボット」)
  • Magical Super Asia 深く美しきアジア、鄭問、講談社
  • 東周英雄伝、鄭問、講談社
  • バガボンド、井上雄彦、講談社(原作 吉川英治「宮本武蔵」より)
  • 寄生獣、岩明均、講談社
  • ヒストリエ、岩明均、講談社
  • ヘウレーカ、岩明均、白泉社
  • 蒼天航路、李學仁・王欣太、講談社
  • 陰陽師、岡野玲子・夢枕獏、白泉社
  • 風の大地、坂田信弘・かざま鋭二、小学館
  • 湾岸ミッドナイト、楠みちはる、講談社
  • 11人いる、萩尾望都、小学館
  • 東の地平 西の永遠、萩尾望都、小学館
  • 百億の昼と千億の夜、萩尾望都、小学館(原作 光瀬龍「百億の昼と千億の夜」より)
  • 風の谷のナウシカ、宮崎駿、徳間書店
  • ブルーシティ、星野之宣、MF文庫
  • 巨人たちの伝説、星野之宣、MF文庫
  • プラネテス、幸村 誠、モーニングKC
  • 攻殻機動隊、士郎 正宗、講談社
  • ピンポン、松本大洋、小学館
  • ぼのぼの、いがらしみきお、竹書房
  • よつばと、あずまきよひこ、メディアワークス
  • 動物のお医者さん、佐々木 倫子、白泉社
  • おたんこナース、佐々木 倫子、小学館
  • Heaven?、佐々木 倫子、小学館

初出:CAREERINQ. 2005/06/30

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