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第20号 ビジネス誌・紙は縦・横に読む(横編) + 祖母からの贈り物

秘密の情報源・・・告白

告白しよう。1つだけほぼ定期的に読んでいる「特別な情報源」がある。割とメジャーなメールマガジンだとも思うが、それは「HotWired Japan」だ※1(現 http://wiredvision.jp/)。米HotWired の翻訳記事が中心だが、その日本語訳のレベルがまず凄い。これだけ難しいテーマを、しかもHotでCoolな日本語で、実に流麗に訳してある。書き手の気持ちが伝わる翻訳だ。

内容はもちろん最高。といっても他と比べたことがないから知らないが、私の好きな最新の天文学ニュースから、スティーブ・ジョブズ(アップル社CEO)の名言集まで。実にクールな話題が満載だ。しかも過去の関連記事との関連リンクが整理されているので、興味があればどんどん遡り、突っ込んでいける。

これは私にとってはビジネスネタというよりは、人生ネタだ。世界の広さと深さ、色を教えてくれる。

永年お世話になってきた恩返しも含め、ここで告白・宣伝する。


最後に『突破するアイデア力』の新章の終わり部分を一部紹介しよう。

喪主代理という仕事:挨拶と順序付け

2006年4月のある日曜の夜、父方の祖母が亡くなった。

享年93、大正元年生まれの大往生である。

喪主である父の具合が悪いこともあり、その長男である私が、喪主代理を務めることになった。


まずは形式的に、喪主(代理)というものの仕事を並べてみよう。

介護施設で老衰による自然死を迎え、医師により臨終が宣告された後、彼女の遺体は自宅に移され安置された。

そこから膨大な相談事と様々な行事が始まる。

もちろん多くは喪主が指名した仕切り役(葬儀委員長)によって差配されるが、喪主でなくてはいけない仕事も数多い。一言で言えば、あらゆる手配内容の最終決定とあらゆる参列者とのコミュニケーション、金銭の管理といったところだろうか。

その中でも喪主の最も大切な仕事は「挨拶」だ。

非公式なものや小さなものは数限りなくあるが、公式な大きなものは今回の例で言えば、通夜と告別式の2回。これがメインとなる。


誰もこんなことに経験の深い人は居ないので「下手で良い」とは言われるが、親戚・友人・知人100名を優に超える参列者の前での「家」を代表しての挨拶は、かなりしびれる経験だった。しかも、スピーチ内容を考えているヒマなど殆どないし、眠気で頭も回らない。

こういうせっぱ詰まった時に(しかも個人の葬儀という場で)話せる内容とはなんだろうか。

結局それは、心に刻まれているその故人との想い出、あるとき抱いた感情、故人が明確にこの世に残したもの、そしてそれらが指し示す故人の生き方とその意味、といったものではないだろうか。

これを祖母からの「贈り物」として、私は挨拶で皆に述べた。

祖母からの贈り物

祖母からの我々への第一の贈り物は、親族そのものだ。

彼女には5人の子供(もともとは8人)、13人の孫、22人の曾孫がいる(06年4月現在)。計40名、その配偶者も合わせれば58名が家系図上(もし書けば)彼女の下にぶら下がることになる。

これだけの人数が自然と互いに知り合い、助け合えることこそ、最大の価値だろう。これはひとえに「ルーツ」たる祖母のお陰である。


もう一つの贈り物は、感謝の言葉、だ。

彼女は若くして近所の八百屋(三谷家)に嫁ぎ、3男5女をもうけたが2女は幼くして亡くなった。

福井を襲った未曾有の大震災で家は全壊、見事にぺしゃんこ(ちなみにこの大地震によって以降、倒壊率80%以上という「震度7」が新しく設定された)。

それを再建した直後に、隣家からの失火で家は再び焼失。

53才で夫を亡くし、75才の時には長男を喪った。83才の時にはたった一人の兄弟も交通事故で亡くした。

友人達も次々他界する中で、それらの葬儀の度「もう長生きしていたくない」と祖母は泣いていた。


でも、我々が思い出す普段の彼女はいつも笑顔だ。

会う度、私たちの手を取り、拝むようにして言う。「ありがとのぉ」「ほんと、○○ちゃんのお陰や」「かてぇけの(健康ですか)」

顔をくしゃくしゃにして感謝の言葉と、健康への気遣いを繰り返す。

耳が遠いので返答しても殆ど通じない。それでもいいのだ。こちらが微笑み返すことで意は通じる。

「おばあちゃん、ボクは元気だよ。おばあちゃんも元気そうで、ボクも嬉しいよ」

そして、喪主代理として

そんな祖母を、皆に覚えていて欲しくて、私なりに精一杯の挨拶をした。祖母が私たちに教えてくれたことを一生懸命伝えた。

「長生きすることは良いことなんだ」と。

そして、白木の棺に入った祖母に向かって、何度も語りかけた。

感謝の言葉を一杯掛けてくれてありがとう。


ヒトは褒められるために生きている。身近なヒトに、認められるために生きている。そういうことを教えてくれてありがとう。

4月、郷里は丁度、桜の開花の頃。ちょっと遅めの桜とともに祖母は多くの子供・孫たちに別れを告げた。


おばあちゃん、ご苦労様。そして、ありがとう。

※1 06年3月に更新が停止された。07年5月 Wired Visionとして再開

初出:CAREERINQ. 2006/09/01

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