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第54号 私的発想論:序説

「発見」の素は専門の壁を超えた横断データ

逆に言えば、種は滅びたが、ヒト科は残った。「科」や「目」はなかなかにしぶとく、簡単には科や目ごと消えて無くなることはない。

ところが白亜紀末(6,500万年前)の大絶滅では、当時700あった生物科の14%がたった100万年の間に消え去った。その中には権勢を誇った恐竜たちも含まれている。

このとき、属レベルでは38%、種レベルでは65~70%が絶滅したであろうと推定されている。


さらに、古生代のペルム紀末(2億5,100万年前)の大絶滅では、なんと40%もの科が消え去った。最大96%の種が絶滅したであろうとラウプ氏は推定する。


こういった大絶滅はラウプ氏の「発見」以前では、なんとなく認識はされていたが立証はされておらず、異論も多かった。

この「いつどんな大絶滅があったのか」という研究には、それまで専門分化して個別にしか行なわれていなかった、生物種別の情報(特に発生と絶滅に関しての)の幅広いデータ整備・分析が不可欠だった。

かつ、特定の時代だけを見ていては、普通の状態なのか、大絶滅かの区別はつかない。だから化石情報の残る全時代に渡っての情報が必要だった。


一人一人の専門家たちが相手にしてきたのは、ある時代のある生物種群だ。

それらの生物が、いつなぜ生まれ、どう生活(何を食べ誰と戦いどう繁殖)し、いつ頃なぜ絶滅していったのかを深く深く研究している。その努力によって初めて、生物種ごとの発生・絶滅年代が特定される。

ラウプ氏の同僚であったセコプスキー氏は、この発生・絶滅情報の収集と整備に努め、1980年頃には全時代・全生物種にわたる3,500件もの絶滅データを持っていた。

それをラウプ氏が数学的に統計処理して、過去6億年の間に大絶滅が頻繁に(約2,600万年ごと※4に)起こっていることを証明した。

この全生物種横断、全年代横断のデータこそが、大発見の素だったのだ。


専門の壁を越えて、大きく横と過去とに比べた視点が、そこでの「不変」と「変化」を初めて浮かび上がらせたのだ。

次作『発想の視点力』で述べること

2009年始めに『正しく決める力』を上梓した。そこでは、戦略的な意思決定および実行力向上のための超基本技を3つ、述べた。

「重要思考」「Q&A力」「喜捨法」

いずれも、これまで自分自身が経営コンサルタントとして肝に銘じ、実行してきた考え方であり技だ。

この8月に上梓する『発想の視点力』は、発想力向上のための本だ。

そこで述べる発想の視点も3つ。「比べる」「ハカる」「空間で観る」だ。


本稿で示したのは、その「比べる」の一部。

ヒトは絶対値や重さを直観できないが(だから「重要思考」が必須)、差には敏感だ。それを逆手にとって、発想に繋げるのが「比べる」視点だ。大きく横や縦に比べることで、不変や変化が見つかる。

全生命種・全時代の絶滅データを比べることで、「大絶滅」は発見された。有色の気体と比べることで、「空気の透明さ」の価値が見つかった。


あなたは何を「比べる」だろうか。そこで何を見つけ出すだろうか。


発想力も鍛えられるモノ、と信じている。


お知らせ:8月上旬、日本実業出版社から『発想の視点力』(予価1580円)が刊行されます。お楽しみに!

※4 周期的と言えるかについての議論は続いている

初出:CAREERINQ. 22009/07/15

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