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第56号 フレームワークをちゃんと、理解しよう

最凶のSWOT

経営学の教科書で最初に取り上げられる分析手法の一つが、SWOT分析だ。まずはこれを「スウォット」とスラリと読めるかどうかが、勝負。

まずブレーンストーミング的に、今の状況(ファクト 事実)を列挙する。そして、それらを4つのハコに分類する。S(Strength 強み)、W(Weakness 弱み)、O(Opportunity 機会)、T(Threaten 脅威)の4つに。

さて、このSWOT分析によって、導かれることは何だろうか。ファクトの整理は出来た。故に、何なのだろうか。


一歩下がって、この4分類を考えてみよう。

これは、2つの軸の2つの値による2x2マトリクスであると言える。横軸は、変えられるか否か。変えられないものを外部環境と呼び、変えられるものを内部環境と呼ぶ。縦軸は自社にとっての意味。ポジティブかネガティブか、で分ける。

ファクトがこの2軸で4種類に分類されると、一体、何が分かるだろうか。

Oのハコに一杯ファクトがあれば、この世はバラ色? Wのハコに一杯ファクトが詰まっていたら悲観すべき?


結論を言えば、SWOT分析自体からは、何も新しい情報は出てこない。少なくとも直接的には。

SWOT分析なるものは、情報「整理」の枠組みに過ぎず、決して「分析」用ではないのだ。


ビジネスにおける「分析」とは、そこから新たな価値が生まれるものである。

にもかかわらず分析という名を冠せられたSWOT分析は、そのわかりやすさのゆえに広く浸透し、万能の分析ツールとして使われている。某一部上場会社では、稟議書に必ずSWOT分析を付記することになっているほどだ。

決して結論を生み出すことがないのに、みな、SWOT「分析」をしただけで、一足飛びに結論を出す。

「だから中国に進出し、自社の低コスト力を活かすべきです!」

大切なのは繋がりと重み

その改良版であるCross SWOT分析は、かなりマシ。OとSやW、TとSやWの「繋がり」を意識させるものだからだ。

まずO(機会)とT(脅威)を挙げる。O1、O2、・・T1、T2、・・・。次にその各項目に対し、S(強み)やW(弱み)を考えていく。O1S1、O1S2、・・・、O1W1、O1W2・・・。

中国市場が伸びている(O1)と言っても、我々には強み(O1S)も、弱み(O1W)も一杯あるぞ。日本市場が縮小している(T1)と言っても、同じく我々には強み(T1S)も弱み(T1W)もある。


そう、これは、今あるファクトを整理するためのツールではなく、考えるべきファクトを「繋がり」のなかから指し示してくれるツールなのだ。

でも残念ながら、ここにも「重み」は無い。だから、どれが重要かは、分からない。


モノゴトの重要さを示してくれる「分析」の一つが「コスト構造分析」だ。

その一番単純なものは、コスト要素別の比率を計算し、それを大きなものから順に積み上げたグラフだったりする。

そんな単純なものだが、しっかりとしたメッセージを我々に発してくれる。それは「どのコストが一番重要か」だ。

流通業であれば、それは書くまでもなく「仕入れ」コストだろう。だから収益インパクトが何よりも大きいのは仕入れコストだ。これをどうする?

いやいや、高級ブランド品の小売であれば、実は仕入れコストは売上の4割に満たない。店舗オペレーション費の方が、よっぽど重要だ。これをどうする?


コスト構造分析には、更に深い使い方が色々ある。

コストと言っても、どう分けるのか。普通は人件費や仕入れといった、会計科目別が一般的だろう。

でもそこに、商品別とか事業部別といった視点も加えてみたらどうだろう。顧客別コストなんて、とれそうでなかなかとれない。でも分かったら凄い結果が出てくるかも。顧客別収益が分かるわけだから。

他にも、業務プロセス別、時間別などコストの分け方一つで、コスト構造分析は多くのインサイトをもたらす「分析」の宝庫なのだ。

フレームワークの「意図」を理解しよう

フレームワークと呼ばれるものには、必ず元々の「意図」がある。「目的」と言っても良い。

そのフレームワークを使って、何をしたいのか、何が出来るのかだ。

整理用なのか分析用なのか。選択肢の絞り込みが出来るのか、創造が出来るのか。


例えばBCG※1が1960年代に開発した、事業ポートフォリオ・マトリクス(相対シェアと市場成長率で、事業を4分類)に対して、こういう批判がある。

「事業を単純に見過ぎていて、細かい部分が無視される」

でも、これは(だいぶん)的外れ。事業ポートフォリオ・マトリクスはそもそも、事業を単純に見るために作られたのだから。


1960年代、米国でいわゆるコングロマリットが最盛期だった頃、そのトップたちは苦しんでいた。

あまりに事業領域が広がり、組織の数が増え(子会社が30ヶ国に1000社とか)、全体としての管理が出来なくなっていたからだ。

1000社各々の事業戦略など、まさか直接チェックは出来ない。でも、直接管理したいことが最後に一つだけあった。それが「資金配分」だ。

お金を、グループ内で、どう回すのか。

どの事業からは吸い上げ、どの事業に大きく投資するのか。太らせるものも、枯れさせるものも決めなくてはならない。それらを、大ざっぱに決めるためのフレームワークが必要だった。

その要請に添って生み出されたのがこの事業ポートフォリオ・マトリクスだったのだ。最初から「大ざっぱ」で「単純」なのは覚悟の上。2x2の図の上には、数十数百の○が並ぶのだから。


こう言ったことは、残念ながら一般のMBA本や、ビジネススクールでは教えていない。

そこまで深くフレームワークを学び、実戦で使ってきた人がほとんどいないからだ。


もしそれを、学びたくなったら?

う~っむ。それは難題。そのうち、書きますかねえ・・・『真説・フレームワーク概論』

市場がとってもニッチな気もするが、皆さんの反響次第と言うことで。


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※1 ボストンコンサルティンググループ。主要な経営戦略コンサルティング会社で唯一、創業者の名前を冠していない

初出:CAREERINQ. 2009/09/15

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